しょうぼうじどうしゃ じぷた
街の消防署には4台の車がありました。高い場所の火も楽に消せるはしご車、強い水圧で一気に消火するポンプ車、けが人をすぐ病院へ運ぶ救急車、そして古いジープを改良した小さな消防自動車“じぷた”です。
華やかな仕事ぶりの3台に比べて、じぷたは自分が小さくて、役に立たないと引け目を感じています。
そんな時山小屋で火事が起こり、じぷたに出動命令が下されます。
小さく強い車体を活かして、山道をぐんぐん登って現場に向かいます。
オレンジ色に大きくじぷたが描かれたこの絵本は、家でも図書室でも児童館でも、子どもの本棚にはいつでもあった気がします。
初版は1963年ですが、そこから現在まで、常に絵本の第一線で読まれていることに驚きます。
子どもたちの大好きな車が主役、そして小さいながらも一生懸命頑張る姿に共感するのかもしれません。実際自分が子どものころは、大きなはしご車やポンプ車は大きなお兄さんお姉さんで、じぷたは自分のような気がしていました。小さくても頑張るじぷたはちびっこたちのヒーローで、いつの時代にも不変のテーマなのだと思います。
しょうぼうじどうしゃじぷた
渡辺 茂男:作/山本 忠敬 :絵
福音館書店
ぐるんぱのようちえん
大きなぞうのぐるんぱは、ひとりぼっちでくらしていました。あんまりさみしくて悲しいので、働きに出ることになりましたが、ビスケット屋さんでも、お皿屋さんでも、靴屋さんでも、自分サイズの大きなものを作ってしまい、お店の人に「もうけっこう」と断られてしまいます。
そんな中、12人の子どもがいるお母さんから、子どもたちと遊んでほしいとお願いされます。
それまで不要とされていた、大きなビスケットもお皿も靴も使って、ぐるんぱは幼稚園を開きます。
娘が2歳の時に、友人からプレゼントにもらった本でした。
幼稚園に入る前に、楽しそうと感じてもらえたらいいなと開いてみたら、なんと幼稚園を開くお話でした!
でも、大きなお皿のプールや靴で遊び、大きなビスケットを食べ、ぞうと一緒に遊べる幼稚園は、間違いなく子どもには楽しそうに映るはずです。
娘もこの本が大好きになり、幼稚園の絵を何度も何度も見るので、破れてしまったくらいです。
お話的には、どこにも受け入れられないぐるんぱが、紆余曲折を経て、最終的に自分が必要とされている場所に落ち着くというストーリーで、どちらかというと大人の方がぐっとくるのではないでしょうか。
堀内誠一さんのダイナミックでかわいい絵も、子どもと大人を難なくぐるんぱの世界に引き込んでくれるのかなと思います。
ぐるんぱのようちえん
西内 ミナミ :作/堀内 誠一:絵
福音館書店
おしゃべりなたまごやき
“寺村輝夫/作”と見ると、「おもしろそう」と反応してしまいます。
子どもの頃に読んで面白かったお話に、寺村さんのものが多かったからかなと思います。その中で一番初めに読んだお話が、この『おしゃべりなたまごやき』です。
毎日が退屈な王様が、ぎゅうぎゅうづめのニワトリ小屋の戸を開けてしまいます。弾けるように飛び出したニワトリたちが、王様を追いかけて城中大騒ぎになりました。自分が開けたと言い出せない王様は、一部始終を見ていた一羽のニワトリに「だれにも言うなよ」と言い聞かせます。
それまで読んでいた昔話に出てくる王様は、威厳があったり、威張っていたりと“大人”でしたが、寺村さんの王様は、お茶目で愛嬌のある、子どもみたいな王様です。これは『ぼくは王さま』シリーズでもそうで、“かわいい王様”という新しいキャラクターを作り上げた功労者なのではないかと思うくらい。“王様”という肩書きとのギャップがまた、子ども心にも楽しかった記憶があります。
赤を基調とした長新太さんの絵もインパクトがあり、見ているだけでも楽しくなります。
おしゃべりなたまごやき
寺村 輝夫 :作/長 新太 :画
福音館書店
ちいさいおうち
静かな田舎の丘の上に、ちいさいおうちが建てられました。とても丈夫な家で、何年もずっとそこに建っています。その間に、まわりの景色はどんどん変わっていきました。
ひなぎくやりんごの木の代わりに、大きな道路ができ、電車が走り、ビルが立ち並びました。ちいさいおうちは、以前のような場所に戻りたいと思うようになりました。
バージニア・リー・バートンの、あたたかみのある絵がとてもかわいい!
ちいさいおうちと、そのまわりに住む人たちがとてものどかで平和です。
でも大きな道路が出来てから、どんどんその風景が壊されていきます。
どんどん、どんどん壊されていって、「もうやめてー」と思うくらい。
のどかな風景から一変、黒ばかりの世界になっていくので、本を見る子どもたちも「なにごとか」と思うはずです。
バートンの生きた1900年代初頭のアメリカは、こんな変化がたくさんあって、胸を痛めていたのかもしれません。
100年経った日本でも、のどかな風景が数年で一変することはたくさんあります。
この絵本は“ちいさいおうち”そのままに、100年後も200年後も残っている、強いメッセージを持つ本なのだと思います。
ちいさいおうち
バージニア・リー・バートン:作/いしいももこ:訳
岩波書店
いやいやえん
『ぐりとぐら』作者コンビのデビュー作です。
『けんたうさぎ』で初めて児童書の読み聞かせをしてみて、3歳、5歳の息子と娘が楽しそうに聞いていたので、次の本に選びました。
文字が多くなるので、子どもたちが聞き続けられるか心配でしたが、最初の章で心をがっちり鷲づかみ!
とにかく“しげるちゃん”がワルなのです。
保育園の決まりをことごとく破って、うわばきを手にはいて顔をなでたり、髪の毛についた紙くずをほうきではいたり、ぬれた手で拍手をしたりするのです。
そんなしげるちゃんの悪行に、聞いている子どもたちは大爆笑!
「わるい〜」とかなんとか言いながら笑っていました。
保育園という日常で、しげるちゃんの自由な発想の世界を行ったり来たりします。
そんな、無さそうでありそうな世界に子どもたちも一緒に入り込んで、自然と楽しんでいました。
いやいやえん
中川 李枝子:作/大村 百合子:絵
福音館書店
けんた・うさぎ
『ぐりとぐら』の作者、中川李枝子さんと山脇百合子さんの児童書です。
娘が幼稚園年長さんの時に先生が読み聞かせをしてくれて、初めてこの本を知りました。
それまで家では絵本ばかりを読み聞かせしていたのですが、楽しそうにこの本の話をする娘を見て、児童書も読み聞かせ出来るんだ…と気づかせてくれました。
お話はうさぎの男の子“けんた”の日常です。くるくる変わる発想で、いたずらしたり、困らせたりして、うさぎかあさん、うさぎとうさんに思いきり甘えます。
お母さんとお父さんも、けんたを愛情たっぷりに受け入れて、なんだか子育ての理想の形です。
ちょうどその時3歳だった息子とけんたがそっくりで、けんたの動作一つひとつがかわいいやら、大変そうやら…。うさぎかあさんに妙に共感してしまいました。
でもあんな風に大らかになるのは至難の技ですが…。
子ども達はけんたの行動に身に覚えがあるのか、にこにこしながら聞いていました。
私はうさぎかあさんに親近感。
ひなたで子どもを眺めるような、幸せいっぱいの気持ちにさせてくれる本です。
けんた・うさぎ
中川 李枝子:作/山脇 百合子:絵
のら書店