matsubockrin 子どもの本棚

親子で読んだおすすめの絵本・児童書を紹介します。

あかちゃんだって つまんでパク!『くだもの』

ぶどう、なし、りんごなど、普段目にする果物が、本物そっくり、それ以上に美味しそうに描かれています。果物まるごと描かれていて、次に食べやすくむかれた形で「さあ どうぞ」と差し出されます。思わず「ありがとう」と受け取って食べたくなるくらい美味しそう!

1歳前後の娘も息子も、姪っ子も友人の子も、みんなつまんでパクッもぐもぐもぐ…と食べるまねをしていました。

だんだん食べられる物が増えて食が広がり、果物もたくさん食べて、美味しいものがわかって来たころ。

食への興味もうれしいですが、それより何より、本の中の果物を口に入れるごっこ遊びを自然としたこと、もぐもぐしながら「おいしいね」と笑い会えた瞬間、鳥肌が立つくらいうれしくなりました。

母がぶどうをつまんで「さあ どうぞ」と渡すと、きちんと受け取ってお口にパク!

もぐもぐする子どもたちを見ていると、あかちゃんにも「するつもり」でごっこ遊びを楽しむ能力が備わっているんだなあと感動します。

そういう子どもたちの潜在的な能力を、絵だけで自然と引き出してしまう本だと思います。


くだもの
平山和子:作
福音館書店

ちょっとかして!『ねずみくんのチョッキ』

おかあさんが編んでくれた赤いチョッキを、うれしそうに着るねずみくん。素敵なチョッキに「ちょっときせてよ」とお友達が次々に着ていくと…。

 

シンプルなモノクロの絵に、ねずみくんのチョッキだけが赤く目立っています。小さなねずみくんの着ていた小さなチョッキが、アヒル、サル、ライオンと、着る動物が変わるたびに、チョッキもすこしずつ変化します。

繰り返しの楽しさと、「ちょっとかして」という気持ちの共感、チョッキを借りて着た動物たちが、みんな誇らしげな表情なのも楽しくなります。

 

大きくなったモチーフは、たいてい元に戻ることが多いのですが、ねずみくんのチョッキはそのままです。

だけど最後のちょっとひねった結末が、クスリと笑えて、なんだかお洒落だなあと思います^^


ねずみくんのチョッキ
なかえよしを:作/上野紀子:絵
ポプラ社

お姉ちゃんってこんな気持ち『あさえと ちいさい いもうと』

あさえにはちいさい妹がいます。とことこ歩く、かわいいあやちゃんです。

お母さんが出かけてしまって、あさえはあやちゃんと二人で外で遊ぶことにしました。道路にチョークで線路を描いてあげると、あやちゃんは大喜びです。もっともっと喜ばせたくて、あさえが夢中で線路を描いていると、いつの間にかあやちゃんがいなくなっていました!

 

子どもの頃初めて読んだ時、自分の事が書かれているのかと思うくらい、びっくりしたのを覚えています。自分がちょうどあさえと同じくらいの頃、ちょうどあやちゃんくらいの妹がいて、薄茶色の柔らかい髪の毛や、水玉模様のかわいい服など、本当にそっくりでした。

そして本当に妹って、ぱっといなくなるんです。

心臓が飛び出る程ドキドキして、「何かあったらどうしよう!」と探し回るけど、どうしてそういう時って、誰もかれもが妹みたいに見えるのでしょうか?

そしてそんなお姉ちゃんの心配をよそに、どうして妹ってあんなにのんきなんでしょうか??

あさえのドキドキが手に取るようにわかり、今も昔も胸が痛みます。

そして最後の場面では、あさえと一緒に緊張の糸が切れて、涙ぐんでしまいます。

小さくても「お姉ちゃん」「お兄ちゃん」を一生懸命がんばる子どもの心を、すぐ近くで見てくれて、寄り添ってくれる、やさしい絵本です。


あさえと ちいさい いもうと
筒井頼子:作/林明子:絵
福音館書店

幸せな変身!『どろんこハリー』

黒いブチのある白い犬のハリーは、お風呂が大嫌い。ある日、お風呂にお湯を入れる音がしてきたので、急いでブラシを庭に隠して逃げ出しました。

街に出たハリーは、工事現場で遊び、機関車の橋の上でススだらけになり、石炭トラックの上で遊んで真っ黒になりました。今では白いブチのある黒い犬です。

遊び疲れて家に帰ると、家の人は誰もこの真っ黒な犬がハリーと気づきません。

逆立ちしたり、宙返りしたり、いつもの芸をたくさんしても全然だめ。ハリーは悲しくなってとぼとぼ外へ出ようとしますが、突然、庭に隠したお風呂のブラシを思い出します!

 

古今東西、老若男女、変身するお話はみんな大好きですね。仮面ライダープリキュア、シンデレラや美女と野獣もそうですし、水戸黄門も立場が変わるという意味では変身の部類?

ギャップが大きければ大きいほど爽快感がありますが、このどろんこハリーの変身も、小さな子どもにとっては大きな変身なのかなと思います。

 

だって真っ黒になったとは言え、家族が誰も自分に気がつかないなんて、悲しすぎます。家族との幸せなコミュニケーションだった「芸」も、自分だと気づいてくれる方法にならないなんて。挙げ句の果てに、家に入れないなんて…。

遊んで帰ったハリーの境遇が気の毒すぎて、子どもだって同情します。

息子は何度も「ハリーなのにね。」とつぶやいていました。

 

でもそこで必殺技のお風呂が出てきます!

家を出なければならなかった、かわいそうなハリーを思うと、変身後の爽快感は抜群です。「よその犬」から「うちの犬」への変身は、子どもも知っている幸せの大変身だからです。


どろんこハリー
ジーン・ジオン:文 / マーガレット・ブロイ・グレアム:絵 / わたなべしげお:訳
福音館書店

他の子とは違う?『スイミー』

小さな魚のスイミーは、たくさんの兄弟と暮らしています。みんな赤いのに、スイミーだけ真っ黒。でも泳ぐのがとても早かったので、スイミーだけマグロに食べられずに逃げました。

ひとりぼっちで泳いでいると、今まで見たこともなかった海の景色に出会います。大きな伊勢海老や昆布とわかめの林、長い長いうなぎなど。そしてスイミーと同じような、小さな赤い魚の群れに出会います。大きな魚を怖がっている仲間たちに、スイミーはあるアイデアを提案します。今度こそ大きな魚に負けないように、みんなで力を合わせる方法です。

 

自分の中の遠い記憶では、スイミーは一匹だけみんなと違って真っ黒で、でもそれを生かして活躍する、というお話だったのですが、大人になって読んでみると、ひとりぼっちになってから海の中をさまよって、色々な生き物に出会う部分が数ページ続くことに驚きました。

親になり子どもを育てる中で、周りとの違いは無意識に意識していることも多く、子どもが赤ちゃんの頃から、出来ることが他の子よりも遅いような気がしたり、違うことをしているような気がしたりしていました。

娘は早生まれなので、なおさら、母である私が気にしすぎていたのかもしれません。

 

スイミーを見ると、そんな他の子とは違う、たった一人の我が子のように思えます。周りと違くて、いい所も光って見えて、でもとても心配。そのスイミーが一人で海を泳いで、今まで知らなかった世界を見て、気づき、新しいコミュニティーに入って行くという、魚も人間も同じ「子どもの独り立ち」が描かれているように思えました。

レオニがページを多く割いたのも、そこが重要だったからなのかな、と。

親に出来ることは、たくさんの世界を見せて外へ送り出し、子どもを信じてあげることくらいなのかなと、寂しいような、でも頼もしいような、ちょっと複雑な気持ちになります…。


スイミー -ちいさな かしこい さかなの はなし
レオ=レオニ:作 / 谷川俊太郎:訳
好学社

なぞなぞのすきな女の子

子どもってなぞなぞが大好きですよね。自分で答えるのも好きだけど、問題を出すのも大好き!ひとつ覚えると問題を出して、「う~ん」と考えている顔を見て満足そう。「それってダジャレじゃ…」って答えにも、得意になって教えてくれるのでおもしろいです^^

 

なぞなぞのすきな女の子も、あんまりなぞなぞを出すのでお母さんがお手上げになり、一緒になぞなぞをしてくれる人を探しに出かけます。

途中おなかを空かせたおおかみに出会うのですが、女の子は得意のなぞなぞを出し、おおかみは考え込んでしまいます。

 

おまぬけおおかみと、機転の利いた女の子のやり取りがユーモラスで、子ども達は大喜び。最後はまるで昔話にあるようなぴしゃりとした終わり方で、みんな安心。よかったね!と笑顔です。


なぞなぞのすきな女の子
松岡享子:作/大杜玲子:絵
学研プラス

ふたりはともだち

がまくんとかえるくんの小さな友情のお話が5つ入った短編集です。

教科書に取り上げられている『おてがみ』のお話が入っているのが『ふたりはともだち』で、他に『ふたりはいっしょ』『ふたりはいつも』『ふたりはきょうも』の3冊があります。

どのお話も、がまくんとかえるくんがゆったりと丁寧に生きていて、二人の関わり方もすごくシンプルです。

相手がいると楽しいし、元気がなければ悲しいし、おいしいものがあったら一緒に食べたいのです。

好きだから一緒にいたい、好きだから悲しませたくないという思いは、おなかが空いたからごはんを食べて、眠いからねる、といった、がまくんとかえるくんの生き方そのもの。

だからこそ、子どもたちはがまくんとかえるくんの気持ちを近いところで理解でき、共感もできるのだろうと思います。

その他いろいろな思いを持つ大人は、そのシンプルな思いに、気づかされたり、羨んだりしてしまいます。


ふたりはともだち
アーノルド・ローベル:作 / 三木 卓:訳
文化出版局

エルマーのぼうけん

言葉を話す不思議な猫から、どうぶつ島に囚われたりゅうの話を聞いたエルマーは、かわいそうなりゅうを助けに行くことにしました。そのりゅうはまだ子どもで、うっかりどうぶつ島に落ちてしまったところを動物たちに捕まってしまい、囚われて、川の橋渡しとして働かされていました。

エルマーはたった一人で船に忍び込んで島へ渡り、猫の話を思い出しながら歩きます。途中、侵入者を嫌う動物たちから何度も脅されますが、その度に素晴らしい機転でかわし、りゅうを助けに進みます。

 

小さな子が読む、初めての冒険の物語にぴったりです!不思議な猫から聞く不思議などうぶつ島やりゅうの話は、日常とかけ離れたファンタジーの世界に、子どもたちをすぐに連れて来てくれます。

また、エルマーが猫から言われて準備した持ち物は、輪ゴム1箱と棒付きキャンデー2ダース、虫めがね6つなど、どれも冒険に関係ないような物ばかりです。

でもどうぶつ島に着くと、それらがことごとく役に立ちます。

いわゆる“伏線回収”のように、持ち物とどうぶつ島での出来事がつながって解決し、「なるほど!」と納得してしまいます。

そして表紙、裏表紙の後ろに島の地図が載っていて、場所の名前や遭遇した動物などが描かれているのですが、お話を読みながら地図と照らし合わせると、エルマーがどうやって島を進んで行ったのかがわかります。

それがまさに探検地図を見ながら進んでいるようで、ワクワク感を大きくしてくれます。

 

文字が大きくひらがなも多いので、読み聞かせはもちろん、字を読む事に慣れてきた子どもが、自分で読むのにちょうどいいと思います。

娘が6歳、息子が4歳の時に読み聞かせをしましたが、娘はすぐに自分で読み始め、息子も一人で読んでいました。絵本ではない字だけの本を読むのは初めてだったので、とても驚きました。児童書を自分で読むきっかけと、読めるという自信になった貴重な一冊です。


エルマーのぼうけん
ルース・スタイルス・ガネット:作 / ルース・クリスマン・ガネット:絵 / 渡辺茂男:訳
福音館書店

かいじゅうたちのいるところ

いたずらっこのマックスは、かいじゅうみたいに大暴れするので、お母さんに叱られて、寝室に閉じ込められてしまいます。すると突然床から木が生えて森になり、波が打ち寄せて船が現れると、マックスは長い航海に出てかいじゅうたちのいる所に辿り着きます。

かいじゅうたちはマックスを見つけると大きな声を出して怖がらせますが、マックスが怒鳴り、睨み付けると恐れ入ってしまい、マックスを自分たちの王様にして、一緒に遊ぶことにしました。

 

今はあまりないかもしれませんが、昔は叱られるとどこかに閉じ込められる、という事がよくあったと思います。そういえば私も何度か押入れに閉じ込められました。

真っ暗でひとりぼっちで、怖くて寂しいのですが、だからこそ空想の世界が広がります。

何も見えないから見えてくる物、もしこんな事があったら、それがこうなったら…、時間はあるので、心ゆくまで頭の中の物語を発展させる事ができます。

マックスが訪れたかいじゅうたちのいる所も、閉じ込められた寝室にあったのかもしれません。暗くて怖いからおばけやかいじゅうが出そうだけれど、もし友達になったらどんな事をするだろうか?どんな事をして遊ぼうか?あれこれ思いを巡らせて、自分の世界に入り込みます。

でもふと我に帰る瞬間が訪れて、やっぱりここから出たいな、おなかが空いたなと寂しくなります。

 

かいじゅうたちのいる所から寝室に戻ったマックスは、あたたかいごはんが置いてある事に気がつきます。戻る場所があり、受け入れられている安心感に、マックスも絵本を読む子どもたちも、ホッとするのではないでしょうか。


かいじゅうたちのいるところ
モーリス・センダック:作/神宮輝夫:訳
冨山房

からすのパンやさん

いずみがもりの木の上に、カラスのパンやさんがありました。

夫婦でお店を切り盛りしていましたが、4羽のかわいい子どもが生まれてからは、お世話で仕事もままならず、パンを焦がしたり、お店が汚れたりで、すっかりお客さんがいなくなってしまいました。

貧乏になったカラス家の子ども達が、おやつに出来損ないのパンを食べていると、周りの子ども達が「おいしそう!」と興味津々。

パンを買いに来る小さなお客さん達の為に、カラス一家は知恵をしぼって、たくさんの種類のパンを作ります。

 

かこさとしさんの絵本には、細かな物や人がたくさん出てきます。

『だるまちゃんとてんぐちゃん』では、だるまちゃんの為に家中の帽子や履物を広げて探したり、『からすのぱんやさん』では、様々な形のパンが所狭しと並びます。

どれも見開き1ページにどーん!と並んでいるので圧巻です。

絵本を見る子ども達は、目移りしながら面白い物を探します。かえるパン、サボテンパン、おかまパン、てんぐパンなどなど。ダイヤル式電話やブラウン管テレビのパンなど、昭和的なラインナップに母も見入ってしまいます。

 

そして噂の広がったパンやさんにたくさんのカラスが押し寄せますが、その描写も細かくて面白い!老若男女、様々な職業とファッションセンス、良いカラス、怪しいカラスと様々です。なぜか花嫁さんまで並んでいます。

そんな、様々な物の表情や背景がたくさんの想像を生み出して、子どもも大人も笑いながらサイドストーリーを考えます。

かこさとしさんがあとがきで書いていますが、そういうカラス一羽一羽のストーリーを、読み手が独自に想像して楽しめる事が、かこさんの魅力の一つかなと思います。


からすのパンやさん
かこさとし:作/絵
偕成社